DX・IT投資

DXは内製か外注か|判断の3層と、副業・兼業人材という中間の選択肢

最終更新:2026-08-05

DXを内製でやるか、外に出すか。この二択で議論が始まることは多いのですが、前提として社内に人がいるかどうかで答えは変わります。公的調査では、DXを推進する人材が不足している企業が8割を超える状態が3年続いています。ここでは二択を一度崩し、「どの部分なら外に出せて、どの部分は外に出せないのか」を層で切り分けます。あわせて、内製と外注の中間にある副業・兼業人材が実際にどれだけ使われ、何に効いているのかも確かめます。

「内製か外注か」は、そもそも選べる問いなのか

内製と外注の二択は、社内に人を置ける会社でだけ成立します。IPAが2026年7月16日に公表したDX動向2026調査のポイントによると、DXを推進する人材の「量」について「やや不足している」「大幅に不足している」と回答した企業の合計は85.5%で、2024年度・2023年度ともほぼ同じ水準でした(回収1,799社)。3年間ほぼ動いていない以上、多くの会社にとって内製は「選ばなかった」のではなく「選べなかった」状態です。問いは「どちらでやるか」ではなく「どの部分を内側に残すか」に置き換えたほうが、実際に動きます。

内製化を勧める記事は多く、その論拠も間違ってはいません。自社で作れば変更が速く、知見も残ります。ただ、その前提には「作れる人が社内にいる」という条件が付いています。

調査では、この条件が満たされていない企業が8割を超える状態が3年続いています。数字が動いていないという事実のほうが重要で、待っていても解消しないことを示しています。

この調査は国内企業の経営層・情報システム部門・DX推進部門などを対象に、2026年4月17日から6月12日にかけて実施されたもので、回収数は1,799社です。中小企業だけを対象とした調査ではありません。

IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公表」(DX動向2026調査/2026年7月16日公表)

同じポイント公表資料では、AIの導入率が従業員1,001人以上で8割近くに達する一方、101人以下では16.6%にとどまっています。規模によって使える手が違う以上、大企業の内製化の事例をそのまま持ち込んでも噛み合いません。

内側に残すべきものは何か|DXの仕事を3層に切り分ける

DXの仕事は、決める層・つくる層・まわす層の3つに分けられます。決める層(何を課題とし、どうなったら合格とするか)は外に出せません。つくる層(設計・実装・導入作業)は外に出せます。まわす層(日々の運用と改善)は、最初は外に頼り、徐々に内側へ移すのが現実的です。内製か外注かを全体で1つに決めるのではなく、層ごとに担い手を決めると、人が足りない状態でも体制が組めます。

「内製か外注か」を一括で決めようとすると、どちらを選んでも無理が出ます。仕事の中身が同じではないからです。

中身外に出せるか理由
決める層何を課題とするか。どの業務を対象にするか。どうなったら合格とするか出せない自社の損益と現場の事情を知らないと決められない。ここを外に預けると、提案に合わせて課題のほうが変わる
つくる層設計・実装・設定・導入作業・データ移行出せる手順が確立しており、社外の経験がそのまま効く。人を採るより速い
まわす層日々の運用、問い合わせ対応、改善の反映最初は出す立ち上げ直後は外の手が要る。使い方が固まった業務から内側へ移す

外注が「丸投げ」になるのは、決める層まで一緒に渡してしまったときです。逆に、決める層さえ社内に残っていれば、つくる層を全面的に外に出しても主導権は保てます。

既存記事でも、DX投資が効かない最大の原因は技術力やベンダー選定ではなく、経営課題を投資に翻訳する工程が抜けることだと扱っています。この翻訳工程が、ここでいう決める層にあたります。

外注すると壊れる部分を、どう見分けるか

外に出してよいかどうかは、業務の難しさではなく「判断が発生するか」で見分けます。判定に使えるのは3つの問いです。第1に、途中で要件が変わったとき誰が決めるか。第2に、うまくいかなかったとき止める判断を誰がするか。第3に、その判断に自社の損益の情報が要るか。3つのうち1つでも社内でしか答えられないなら、その部分は決める層に属します。

層の切り分けは概念としては分かりやすいものの、実際の案件では境目が曖昧になります。判定には次の3問を使います。

  1. 要件が変わったとき、誰が決めるか。社外の担当者が決めているなら、決める層まで渡している状態
  2. うまくいかなかったとき、止める判断を誰がするか。契約上そこが決まっていないと、期限が来るまで止まらない
  3. その判断に、自社の損益や現場の事情の情報が要るか。要るなら外では決められない

3問のうち1つでも社内でしか答えられないなら、その部分は社内に責任者を置きます。責任者は技術者である必要はありません。決める人であればよく、経営者本人が担っても構いません。

なお、決める層の中身のうち「どうなったら合格とするか」は、試しに導入する段階で最初に必要になります。書き方は別記事にまとめています。

止める判断の基準そのものをどう作るかは、本記事の範囲外です。稼働中の投資をいつ止めるかは、埋没費用の扱いを含めて別に設計する必要があります。

内製と外注の間に、どんな選択肢があるのか

内製と外注の中間に、副業・兼業人材という選択肢があります。2026年版中小企業白書によると、副業・兼業人材を「現在活用している」中小企業は7.0%、「活用したことはないが今後活用する意向がある」が14.5%でした(n=12,001)。効果を尋ねた設問は、現在活用しているか過去に活用したことがある事業者に限定した複数回答で、「人手不足や業務負担の軽減」が57.0%で最多、「社外の技術や知識の獲得」が20.3%と続きます。一方で「特にない」も16.1%あり、万能の手段ではありません。

正社員を採るには時間がかかり、外注では決める層まで渡してしまう。その間を埋める手として、他社の正社員が空き時間に働く副業・兼業人材があります。

副業・兼業人材の活用状況(中小企業全体)

状況割合
現在活用している7.0%
現在活用していないが、活用したことはある4.0%
活用したことはないが、今後活用する意向がある14.5%
活用したことはなく、今後も活用する意向はない74.5%

活用して得られた効果(活用した企業に限定・複数回答)

効果割合
人手不足や業務負担の軽減57.0%
社外の技術や知識の獲得20.3%
特にない16.1%
従業員のスキルアップ14.2%
コストの削減12.6%
社外の人材とのネットワーク形成8.5%
組織文化や風土の改革6.2%
新事業・イノベーションの創出5.8%

効果の内訳を見ると、上位は人手と知識の補充です。「新事業・イノベーションの創出」は5.8%にとどまり、「特にない」が16.1%あります。この選択肢は、つくる層とまわす層の手当てには効きますが、事業を変える力を外から買う手段としては期待どおりにならないことがある、と読めます。

ここでの副業・兼業人材とは、他社の正社員が業務後や休日等の空き時間を使って別の仕事を行うことを指します。効果の設問は、活用状況について「現在活用している」「現在活用していないが、活用したことはある」と回答した事業者に限って聞いたものです。

中小企業庁「2026年版 中小企業白書」第2部 第2章 第3節 人材活用の取組(第2-3-12図・第2-3-13図)

中間の選択肢が使われない理由は、コストなのか

副業・兼業人材を活用していない理由の上位は、コストではありません。中小企業白書が、副業・兼業人材を活用したことがない事業者(今後の活用意向の有無は問わない)に限定して尋ねた複数回答では、最も多いのが「活用のイメージが浮かばない」36.2%、次いで「人材のスキル・品質への不安がある」35.1%、「受け入れる社内体制が整備されていない」33.2%でした。「予算が確保できない」は3.9%で下位です。この選択肢を検討する場合、費用の議論より先に、任せる仕事の切り出しと受け入れ手順を決めるほうが進みます。

使われていない理由の分布は、費用ではなく設計の問題であることを示しています。

活用していない理由割合
活用のイメージが浮かばない36.2%
人材のスキル・品質への不安がある35.1%
受け入れる社内体制が整備されていない33.2%
セキュリティ・情報漏えいへの不安がある25.1%
人材の探し方が分からない8.3%
従業員からの反発が予想される8.1%
予算が確保できない3.9%
人材を募集しているが、採用には至っていない2.8%

上位3つはいずれも、任せる仕事が切り出せていないことに起因します。前章の3層で言えば、つくる層とまわす層のうちどの作業を渡すのかが決まっていない状態です。逆に言えば、切り出しさえできれば、この選択肢の障壁は費用ではありません。

この設問は、副業・兼業人材の活用について「活用したことはないが、今後活用する意向がある」「活用したことはなく、今後も活用する意向はない」と回答した事業者に聞いたものです。複数回答のため合計は100%になりません。

なお、着手する業務そのものが決まっていない段階であれば、体制の話より先にそちらを決める必要があります。

中小企業庁「2026年版 中小企業白書」第2-3-14図

体制を決めるとき、何をやりがちか

体制の決め方でよく起きるのは、決める層まで含めて外に渡す、人が足りないまま全部を内製にしようとする、情報システム担当ひとりに全層を背負わせる、契約形態を先に決める、の4つです。共通しているのは、仕事を層に分けないまま担い手を1つに決めている点です。層ごとに担い手を割り当てれば、人が足りない状態でも主導権を残したまま進められます。

やりがちな決め方何が起きるか代わりに置く判断
決める層まで含めて外に渡す提案に合わせて課題のほうが変わる。成果の判定基準も相手が持つことになる合格基準だけは社内で文書にしてから発注する
人が足りないまま全部を内製にする担当者の稼働が上限に達し、本業と作業のどちらも滞るつくる層は外に出し、決める層に社内の時間を寄せる
情報システム担当ひとりに全層を背負わせる導入までは進むが、業務側の合意が取れず定着しない決める層に業務部門の責任者を必ず入れる
契約形態を先に決める請負か準委任かの議論が、何を任せるかの議論を追い越す層の切り分けを先に終え、それに合う契約形態を後から選ぶ

体制と関係なく止まる原因も存在します。全社展開の責任者が決まっていない、経営課題と施策がつながっていないといった構造的な失敗は、内製か外注かを変えても解けません。

体制が決まったあと、いくらまで出せるかは予算の話になります。

体制を詰める前に、DXが最優先の領域かを確かめる

内製か外注かを詰める前に、DXが自社にとって最初に手をつける領域かを確かめておく必要があります。利益が伸びない原因が価格設計や人材の定着にある場合、どちらの体制を選んでも損益は動きません。無料の経営ROI診断(約5分)は、成長戦略・意思決定・組織実行・人材後継・DX業務・顧客市場の6領域を横断してスコア化するため、DXに人と金を寄せる判断が妥当かを第三者のフレームで確かめられます。

体制の議論は具体的で進めやすいため、そこに時間が集まりがちです。ただ、決める層に置くべき問いは「誰がやるか」の前に「何をやるか」であり、さらにその前に「そもそもDXなのか」があります。

無料の経営ROI診断(約5分)では、自社に近い経営者タイプと、最初に着手すべき領域を確認できます。体制を固める前に、投資順位そのものを照らし直す材料として使えます。

よくある質問

Q. DXは内製と外注のどちらが正解ですか?
A. 全体を一括で決める問いにすると、どちらを選んでも無理が出ます。仕事を決める層(課題と合格基準を決める)・つくる層(設計と実装)・まわす層(運用と改善)に分け、決める層は社内、つくる層は外、まわす層は最初は外で後から内側へ、という配分が現実的です。IPAが2026年7月16日に公表したDX動向2026調査のポイント(回収1,799社)では、DXを推進する人材が不足している企業が85.5%で3年続いており、全部を内製にする前提は多くの会社で成立しません。
Q. 外注は「丸投げ」になりませんか?
A. 丸投げになるのは、決める層まで一緒に渡したときです。要件が変わったときに誰が決めるか、うまくいかないときに止める判断を誰がするか、その判断に自社の損益情報が要るか。この3つのうち1つでも社内でしか答えられないなら、その部分は社内に責任者を置きます。責任者は技術者である必要はなく、決める人であれば経営者本人でも構いません。
Q. 副業・兼業人材は実際に使われているのですか?
A. 2026年版中小企業白書によると、中小企業で「現在活用している」のは7.0%、「活用したことはないが今後活用する意向がある」が14.5%でした(n=12,001)。多数派ではありませんが、活用した企業では「人手不足や業務負担の軽減」が57.0%、「社外の技術や知識の獲得」が20.3%という効果が挙がっています。一方で「特にない」も16.1%あり、任せる仕事を切り出せているかで結果が分かれると読めます。
Q. 副業人材を使うにはコストがかかるのではありませんか?
A. 同じ白書が、副業・兼業人材を活用したことがない事業者に限って理由を聞いた設問では、「予算が確保できない」は3.9%で下位でした。上位は「活用のイメージが浮かばない」36.2%、「人材のスキル・品質への不安がある」35.1%、「受け入れる社内体制が整備されていない」33.2%です。障壁として多く挙がっているのは費用ではなく、任せる仕事の切り出しと受け入れ手順の設計でした。
Q. 請負契約と準委任契約のどちらがよいですか?
A. 契約形態から決めると、何を任せるかの議論が後回しになります。先に層の切り分けを終えてください。成果物が明確に定義できるつくる層の作業は請負に向き、要件が動くまわす層の作業は準委任に向く、という順序で選ぶと噛み合います。なお個別の契約条件は自社の状況で変わるため、締結前に専門家へ確認してください。
Q. 社内にIT人材がいない場合、決める層も外に頼れませんか?
A. 決める層に必要なのは技術知識ではなく、自社の損益と現場の事情を知っていることです。どの業務が対象か、どうなったら合格か、いくらまで出せるか。これらは技術者でなくても決められますし、外部からは決められません。技術的な選択肢の提示は外から受けられますが、選ぶ行為は社内に残す、という切り分けになります。

参照(一次情報)

本記事の数値は、以下の公的機関の調査および白書に掲載されたものを参照しています。各設問の母集団・調査時期・回答形式は本文中に記載しています。

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