固定費・経費削減は、どこから手をつけるか|「5つの方法」の前に決める、利益で削る優先順位
経費を削ろうとすると、たいていは金額の大きい費目か、すぐ削れそうな費目から手をつけます。ところが一律で削ったあとに、売上まで細くなって利益は思ったほど残らない。これは、費用を「金額の大きさ」や「削りやすさ」で並べているために起きます。削減が利益に効くかどうかを決めているのは、費目の金額ではなく、その支出が売上をどれだけ生んでいるかです。ここでは、削減アイデアの一覧に飛びつく前に、どの費用から削り、どの費用には手をつけないかを、順番の問題として整理します。
経費削減は、どこから手をつけるべきか
経費削減の最初の一手は、金額の大きい費目や、着手の楽な費目ではなく、「売上への効きが小さく、削り代が大きい費用」から削ることです。費用は金額の大きさで並べるのではなく、その支出を止めたら売上がどれだけ落ちるか(売上連動度)と、惰性や重複でどれだけ余分があるか(削り代)の2軸で仕分けます。売上を生んでいる人件費や販促を先に削ると、経費と一緒に売上も落ち、利益は残りません。
「利益が薄いから経費を削ろう」となったとき、多くの現場でまず候補に挙がるのは、金額の大きい費目です。人件費、地代家賃、外注費。金額が大きいほど削減インパクトも大きく見えるため、そこから手をつけたくなります。
ところが、金額の大きい費目は、事業の売上を生んでいる中核であることが少なくありません。主力の人件費を削れば現場が回らなくなり、効いている販促を止めれば新規の売上が細る。削減額は出たのに、それ以上に売上が落ちて、利益はむしろ減ってしまう。この「縮小均衡」は、費用を金額の順に削ると起きます。
削減が利益に効くかどうかを分けているのは、費目の金額ではありません。その支出が売上をどれだけ生んでいるかです。だからこそ、一覧の上から削り始める前に、どの費用が売上に効いていて、どの費用が惰性で残っているかを見分ける一手間が要ります。
なぜ「経費削減アイデア5選」を実行しても利益が増えないのか
削減アイデアの一覧を上から実行しても利益が増えにくいのは、その一覧が「手っ取り早く削れる順」や「一般的によくある順」で並んでいて、自社で売上を生んでいる費用と生んでいない費用を区別しないからです。売上を生む費用まで一律に削れば、経費と一緒に売上も減ります。足りないのは削減の数ではなく、どの費用から削るかという順番の設計です。
「経費削減 アイデア」で調べると、通信費の見直し、サブスクの棚卸し、ペーパーレス化、人件費の抑制、といった施策が並びます。どれも間違いではありません。ただ、こうした一覧には共通の弱点があります。自社の事情と切り離された「一般的に削れる費目」の並びであって、その費用が自社の売上にどれだけ効いているかを見ていない点です。
施策の一覧だけで進めたときに起きること
- 費目の金額の大きさだけを見て、大きい順に削ろうとする
- 着手の楽な費目から手をつけ、効き目の小さい削減で満足してしまう
- 売上への連動を見ないまま、主力の販促や人にまで削減が及ぶ
- 「全費目を一律で○%カット」と号令をかけ、削ってはいけない費用まで薄くなる
削減の一覧は、順番を決めてから使う道具です。先に自社の費用を売上連動と削り代で仕分けておけば、同じ一覧でも「どれを先に、どれは後回しにするか」が判断できます。順番の設計を飛ばして一覧を上から実行すると、努力の割に利益が動かず、翌期の売上を痛めるだけになりがちです。
削減アイデアそのものが不要という話ではありません。仕分けを先にしておくと、同じ削減施策でも利益への効き方が変わる、という順番の問題です。
固定費・経費を「4象限」で仕分ける(売上への効き×削り代)
費用の優先順位は、金額ではなく2軸の4象限で決めます。横軸は売上への効き(その支出を止めたら売上が落ちるか)、縦軸は削り代(惰性・重複・過剰でどれだけ余分があるか)。売上連動が低く削り代が大きい費用は最優先で削り、売上連動が高く削り代が小さい費用は最後まで触らない。この4象限に自社の費目を置くと、どこから削るかが金額に引きずられずに決まります。
自社の固定費・経費を、次の2軸で仕分けます。横軸は「その支出を止めたら、3か月後に売上は何割残るか」という売上への効き。縦軸は「惰性・重複・過剰で、どれだけ余分が乗っているか」という削り代です。この2軸で費目を4つの象限に置きます。
| 象限 | 売上への効き | 削り代 | 打ち手と、当てはまる主な費目 |
|---|---|---|---|
| ① 最優先で削る | 低い | 大きい | 止めても売上がほぼ落ちず、余分が乗っている費用。使われていないツール、重複した契約、惰性で続く保守・保険・地代の見直し余地など |
| ② 後回し・自動化 | 低い | 小さい | 売上に効かないが、削っても効果が小さい費用。手間だけを仕組みで減らす対象 |
| ③ 慎重に段階削減 | 高い | 大きい | 売上に効くが、余分も乗っている費用。非効率な広告、在庫の保管費・廃棄損、多すぎる拠点など。一気に削らず、効き目を見ながら段階的に |
| ④ 最後まで触らない | 高い | 小さい | 売上を支える中核で、余分も少ない費用。主力人材の人件費、効いている販促、コア設備。ここから削ると事業が縮む |
着手の順番は、金額の大きさではなく象限で決まります。まず①から削り、次に②を仕組みで軽くする。③は売上への影響を確かめながら段階的に。④は削減の対象から外し、効率化の観点だけで最後に見直します。
売上への効きは、正確な数字を出すより「止めたら売上が落ちるか、ほとんど変わらないか」を費目ごとに問うだけでも仕分けられます。判断に迷う費目は、いったん③に置いて段階削減の対象にすると安全です。
最優先で削るのは「売上連動が低く削り代が大きい」費用
最初に削るべきは①象限、つまり止めても売上がほとんど落ちず、惰性で余分が乗っている費用です。使われていないツールや重複した契約、内容を見直せる保守・保険・地代などが当てはまります。ここは削っても売上への跳ね返りが小さいため、削減額がそのまま利益に残りやすい領域です。自社の固定費一覧を作り、①象限に入る費目から順に手をつけます。
①象限の費用は、金額が小さく見えて後回しにされがちですが、削減がそのまま利益に残る効率のよい領域です。手順は次のとおりです。
- 固定費・経費を費目ごとに一覧化する(毎月・毎年、自動で出ていく支出をすべて書き出す)
- 各費目について「この支出を止めたら、3か月後に売上は何割残るか」を問い、売上連動の高い・低いを分ける
- 売上連動の低い費目について、惰性・重複・過剰でどれだけ余分が乗っているか(削り代)を見積もる
- 売上連動が低く削り代が大きい①象限の費目から着手し、契約の解約・見直し・統合を進める
どの費目に「気づいていない漏れ」が潜んでいるか自体が掴めていない段階なら、症状から利益の漏れを逆引きする手順を先に読むと、①象限の当たりがつけやすくなります。
逆に「最後まで触ってはいけない」費用はどれか
最後まで削減対象から外すのは④象限、売上への効きが高く削り代が小さい費用です。主力人材の人件費、効いている販促、事業のコア設備が当てはまります。金額が大きいという理由で人件費から削ると、売上連動が最も高い費用を削ることになり、コスト以上に売上が落ちる縮小均衡に陥ります。④象限は削減ではなく、配置や使い方の効率化だけを最後に検討します。
人件費は費用の中でも金額が大きいため、「まず人件費から」と考えたくなります。ところが人件費、とくに売上を直接つくっている人の人件費は、売上への効きが最も高い費用です。ここを先に削ると、目先のコストは下がっても、翌期の売上側が細くなって利益はかえって減ります。
効いている販促やコア設備も同じです。新規の売上を生んでいる広告を止めれば、削減額を上回る売上が失われることがあります。④象限の費用は「削るか・残すか」ではなく、「同じ費用で、より効かせられないか」という再配分・効率化の対象として、最後に検討します。
売上側から利益を守る打ち手として、値上げや価格の見直しで粗利を取り戻す方向もあります。費用を削るだけでなく、価格側で利益を確保する手順は別記事で扱っています。
値上げ・価格判断で利益を守る手順は「値上げ・価格判断で利益を取り戻す|『利益の慣性流出』を止める手順」で詳述しています。
その機能は、内製と外注のどちらで持つべきか
費用は削る前に、その機能をおもに内製(固定費寄り)で持つか、外注(変動費寄り)で持つかを選べます。外注は使った分の変動費で身軽な一方、施策を一つ足すごとに追加費用がかかり、柔軟性は下がりがちです。内製は固定費に寄る一方、自社の仕組みで動かせて、扱う量が増えるほど単位あたりのコストが下がり、売上への貢献も生みやすくなります。ただし外注にも月額固定や最低発注量があり、内製にも兼務や自動化で変動する部分があるため、固定か変動かは契約形態と稼働量で決まります。判断は費用の性質だけでなく、需要の変動、採用・教育のコスト、品質、撤退のしやすさもあわせて見ます。一定の規模と継続性がある中核機能ほど内製化の効きが大きい一方、立て直しの初期は、社員を増やす前に外注で一気に直し、立ち直ってから内製へ移すほうが速い場合があります。
費目を「削るか残すか」で考える前に、そもそもその機能を社内に持つか外に出すかという選択があります。外注か内製かで、費用が変動費に寄るか固定費に寄るか、そして動かし方の柔軟性が変わります(固定か変動かの構成そのものは、契約形態と稼働量によります)。
内製と外注で変わること
- 外注は使った分の変動費で身軽な傾向がある一方、施策を追加するたびに見積もりと追加費用が発生し、動かし方の自由度が低くなりがち(月額固定や最低発注量がある契約もある)
- 内製は固定費に寄るが、自社の判断で柔軟に動かせ、扱う量が増えるほど単位コストが下がり、機能そのものが売上に貢献し始める(兼務や自動化で変動的に持つ余地もある)
- 規模が小さい・一時的な機能は外注、規模が大きく継続する中核機能は内製が向く。あわせて需要の変動・採用や教育のコスト・品質・撤退のしやすさで判断する
ただし、切り替えには順番があります。すぐに立て直したい局面では、採用・教育・評価のサイクルは時間がかかりすぎて間に合わないことがあります。この段階では、売上に直結する機能を、社員という固定費を増やす前に外注で一気に立て直すほうが速い。立ち直ってきたら、並行して進めた採用に役割を移し、外注から内製の固定費へ組み替え、新しいメンバーへ渡せる形にして仕組み化する。固定費を増やす判断は、この「立て直ってきた」段階まで待つと、無理のない形になります。
内製化は「社員を増やす」ことと同義ではありません。まず外注で立て直し、効果を確かめてから固定費に変えると、増やした人件費が空回りするリスクを抑えられます。
外注から内製へ移し、属人的な運用を誰でも回せる形に落とす進め方は、仕組み化の記事で詳しく扱っています。
属人化を仕組みに変える投資判断は「集客・営業が属人化する会社の共通パターンと、仕組み化に投資すべきポイント」で解説しています。
人件費・販管費は「削る」より「効き目で並べ替える」
売上に効いている人件費や販管費は、総額を削るより、費目の中を「効いている配分」と「惰性の配分」に分けて並べ替えるほうが利益に効きます。とくに販促費・営業インセンティブ・イベント費には、慣例で続いているだけで売上に効いていない支出が混ざりがちです。売上に直結する施策は残すか広げ、直結しない施策は減らすか配分を組み替える。総額を変えずに、効き目の配分を変えるだけで利益率が動きます。
④象限や③象限の費用は、一律で削ると売上を痛めますが、費目の中身は一様ではありません。広告費のうち一部の媒体だけが成約につながっている、営業インセンティブのうち一部だけが本当に効いている、といった偏りが、たいていの費目に潜んでいます。長く続いている事業ほど、慣例で続いているだけの販促・インセンティブ・イベントが眠っています。
慣例で続く費用を、2つに仕分ける
- 売上に直結している施策:現行のまま残すか、むしろ予算・規模の拡大を検討する
- 売上に直結していない施策:予算を減らすか、効いている施策へ配分を組み替える
販管費や人件費に手を入れるときは、総額を何%削るという発想の前に、その費目の中を「売上を生んでいる配分」と「惰性で続いている配分」に分けます。惰性の配分を止め、生きている配分に寄せる。総額は同じでも、効き目の配分を変えるだけで利益率は動きます。削減と再配分は別の打ち手で、④象限に近い費用ほど再配分のほうが安全です。
費用側の削減や再配分と並行して、売上側の「質」(粗利率・獲得コスト・継続率)を組み替えると、利益率はもう一段動きます。売上側の着眼点は別記事で扱っています。
売上側の質から利益率を上げる進め方は「収益改善の進め方|『売上アップかコスト削減か』の前に決める、利益率を上げる着眼点」で詳述しています。
削減を利益に定着させる、最初の手順
削減を一度きりで終わらせないために、診断・仕分け・実行・モニタリングの順で回します。まず費目を一覧化して4象限に置き(診断)、①象限から削り(仕分け・実行)、削減後に悪影響が出ていないかを追う(モニタリング)。見るのは売上・受注だけでなく、粗利、継続率(解約率)、納期や品質、現場の負荷まで含めます。費目ごとに観測期間と、悪化したら削減を戻す条件をあらかじめ決めておくと、削りすぎや縮小均衡を早く見つけられます。
- 固定費・経費を費目ごとに一覧化し、売上への効き×削り代の4象限に置く(診断)
- ①象限から着手し、②を仕組みで軽くする。③は影響を見ながら段階的に、④は削減対象から外す(仕分け・実行)
- 削減した費目ごとに観測期間を決め、売上・受注に加えて粗利・継続率(解約率)・納期や品質・現場の負荷が悪化していないかを確認する(モニタリング)
- 悪化の兆しが出た費目は③・④の見立てが甘かった可能性があるため、あらかじめ決めた条件に沿って削減幅を戻すか、再配分に切り替える
観測期間は費目の性質で変えます。効果がすぐ表れる費目は4週間ほど、受注や継続率に遅れて響く費目は3か月ほどが目安です。粗利・継続率・納期や品質・現場の負荷のいずれかが、削減前の基準と比べて自社で決めた許容幅を超えて悪化したら、次の月から削減幅を戻すか再配分に切り替えます。許容幅の具体的な数値は、費目と事業の実態に合わせて各社で設定してください。
そもそも自社の経営課題のうち、どの領域から手をつけるかを俯瞰したい場合は、影響度・着手しやすさ・波及の3軸で着手順位を採点する方法が使えます。費用削減もその一領域として位置づけると、全体の中での優先順位が見えます。
着手順位の採点方法は「経営課題はどの領域から手をつけるか|着手順位の決め方(ROI優先順位マップ)」で詳述しています。
すでに赤字が続き資金繰りが逼迫している場合は、費用の仕分けより先に、資金の手当てと立て直しの着手順位を優先してください。その局面の進め方は別記事で扱っています。
自社がどの費用から削るべきかを、診断で確かめる
自社がどの費用から削るべきか、どの領域に利益の漏れがあるかは、経営者のタイプと現在の症状から当たりをつけられます。無料の経営ROI診断(約5分)では、6つの経営領域から自社に近い経営者タイプと、最初に着手すべき領域を確認できます。費用の仕分けを始める前に、社内で立てた優先順位を第三者のフレームで照らし直す使い方ができます。
費用の削減順位を社内だけで決めると、金額の大きい費目や、直近で目立っている支出に寄りがちです。利益に本当に効く削減と、社内で話題になっている削減は、必ずしも一致しません。
無料の経営ROI診断(約5分)では、成長戦略・意思決定・組織実行・人材後継・DX業務・顧客市場の6領域から、自社に近い経営者タイプと着手すべき領域を整理できます。どの費用から削るかを決める前に、自社の優先順位を俯瞰する材料として使えます。
よくある質問
- Q. 経費削減は、何から始めるべきですか?
- A. 金額の大きい費目や削減の楽な費目からではなく、「売上への効きが小さく、削り代が大きい費用」から始めます。使われていないツール、重複した契約、惰性で続く保守・保険・地代の見直しなどが当てはまります。ここは削っても売上への跳ね返りが小さいため、削減額がそのまま利益に残りやすい領域です。
- Q. 人件費は削るべきですか?
- A. 売上を直接つくっている主力の人件費は、費用の中で最も売上への効きが高いため、削減の対象からは最後に回します。金額が大きいという理由で先に削ると、コスト以上に売上が落ちる縮小均衡に陥りがちです。人件費に手を入れるなら、総額を削るより、効いている配分と惰性の配分を見分けて並べ替えるほうが安全です。
- Q. コスト削減のために内製化すべきですか?
- A. 規模が大きく継続する中核機能ほど、内製化で単位コストが下がり、売上への貢献も生みやすくなります。一方で規模が小さい機能や一時的な機能は、変動費で身軽な外注が向きます。ただし立て直しの初期は、社員という固定費を増やす前に外注で一気に修正し、立ち直ってから内製へ移すほうが、無理のない順番になりやすいです。
- Q. 経費削減アイデアを実行しても、利益が増えないのはなぜですか?
- A. 削減アイデアの一覧は「一般的に削れる費目」の並びで、自社で売上を生んでいる費用と生んでいない費用を区別しないためです。上から順に実行すると、売上を生む費用まで一律に削れて、経費と一緒に売上も落ちます。足りないのは削減の数ではなく、どの費用から削るかという順番の設計です。
- Q. 固定費と変動費、どちらを先に見直すべきですか?
- A. 固定費か変動費かという区分よりも、「売上への効き×削り代」の2軸で見るほうが、削る順番を決めやすくなります。実際には、惰性で続く固定費(使っていない契約や過大な間接費)が、売上連動が低く削り代の大きい①象限に入りやすく、最優先の対象になりやすい傾向があります。
- Q. 経費削減の目標額は、どう決めればよいですか?
- A. 「全費目を一律で○%カット」と先に目標額を決めると、削ってはいけない④象限の費用まで薄くなります。目標額は、売上連動が低く削り代の大きい①象限の費目を積み上げて、無理なく出せる額から設計するのが現実的です。売上を支える費用に削減目標を割り当てないことが、縮小均衡を避ける前提になります。
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