収益改善の進め方|「売上アップかコスト削減か」の前に決める、利益率を上げる着眼点
収益改善に取り組もうとすると、たいていは「売上を増やす」か「コストを減らす」かの二択に行き着きます。ところが売上アップは時間がかかり、コスト削減はいずれ限界が来る。両方を同時に追ってどちらも中途半端になり、利益率は思ったほど動かない。この消耗が起きるのは、収益改善を売上とコストの「量」の問題として捉えているからです。利益率を実際に動かすのは量ではなく、売上とコストの「質」です。ここでは、二択に飛び込む前に何を着眼点に置き、どの順番で手をつけるかを整理します。
収益改善は、まず何を決めるべきか
収益改善の最初の一手は、売上アップでもコスト削減でもなく「利益率を下げている質の低い部分はどこか」を決めることです。売上とコストの量をいじる前に、粗利率の低い売上構成・回収できていない獲得コスト・積み上がらない継続率のうち、自社で最も傷んでいる1つを特定する。着眼点を絞ってから、個別の打ち手に入ります。
収益改善というと、多くの現場でまず候補に挙がるのが「新しい売上をつくる」か「経費を削る」かです。どちらも間違いではありません。ただ、この二択だけで進めると、売上施策は成果が出るまで数か月かかり、コスト削減は一度きりで効き目が続かないという壁に同時にぶつかります。
利益率が伸び悩む会社を見ていくと、売上が足りないというより、いまある売上の中身が利益を残しにくい構成になっていることが少なくありません。値引きの常態化、粗利の薄い商品への偏り、割に合わない顧客への過剰な工数。これらは売上の「量」を増やしても解消せず、むしろ規模が大きくなるほど損失も比例して膨らみます。だからこそ、量をいじる前に、どの「質」から手を入れるかを先に決める一手間が効いてきます。
なぜ「売上アップかコスト削減か」の二択で消耗するのか
二択で消耗するのは、売上アップとコスト削減がどちらも「量」を動かす打ち手で、利益率の原因である「質」に触れていないからです。質の低い売上構成を放置したまま売上を増やせば損失も比例して増え、質を見ずにコストを一律で削れば利益を生む費用まで削れます。量の操作は、質を直したあとで効きます。
売上アップとコスト削減は、どちらも数字が動くのが見えるため、着手の実感を得やすい打ち手です。ただ、この二つには共通の弱点があります。売上高も経費総額も「量」の指標で、利益率そのものを直接あらわしてはいないという点です。
二択だけで進めたときに起きること
- 売上を増やす方向に振ると、粗利の薄い取引まで一緒に増え、忙しくなったのに利益率は横ばい、という状態になる
- コストを一律で削る方向に振ると、利益を生んでいた広告や人にまで手が及び、翌期の売上側が細くなる
- 両方を同時に追うと、営業は増やす、管理は削るで社内の号令が食い違い、現場が疲弊して両方止まる
売上高もコスト総額も、利益率が生まれた「結果」の側の数字です。利益率を決めているのは、その内訳の質、つまり粗利率・獲得コスト・継続率のほうです。ここに手を入れないまま量だけを動かすと、努力の割に利益率が動かず、消耗だけが残ります。
売上アップやコスト削減が不要という話ではありません。質を先に直しておくと、同じ売上施策・同じコスト削減でも利益率への効き方が大きくなる、という順番の問題です。
利益率を上げる収益改善の、3つの着眼点
利益率を動かす着眼点は、売上とコストの量ではなく「質」の3つです。1つ目は売上の質(粗利率の高い構成になっているか)、2つ目は獲得の質(1件あたりの獲得コストと歩留まり)、3つ目は継続の質(一度きりか、積み上がるか)。この3つは既存の売上・コストの内訳を組み替えるだけで動き、新規投資が小さくても利益率に効きます。
収益改善で最初に見るべきは、以下の3つの「質」です。いずれも、いまある売上やコストの中身を組み替える話で、大きな追加投資を前提としません。
- 売上の質(粗利率):同じ売上高でも、粗利の厚い商品・顧客の比率が高いほど利益率は上がります。値引きの常態化や薄利案件への依存は、ここを静かに削ります
- 獲得の質(獲得コストと歩留まり):新規1件を取るのにいくらかかり、そのうち何割が実際にペイする顧客か。安く数を集めても、成約と定着を伴わなければ獲得コストは回収できません
- 継続の質(リピート・LTV):一度きりの取引か、繰り返し買われて積み上がるか。継続率が上がると、同じ獲得コストから得られる生涯の粗利が増え、利益率の土台が変わります
この3つは互いにつながっています。粗利の厚い顧客ほど継続しやすく、継続する顧客ほど獲得コストを回収しやすい。逆に、どれか1つが傷んでいると、他の2つの努力も相殺されます。まず自社で最も傷んでいる1つを見つけることが、収益改善の入口になります。
3つの着眼点のうち、価格・粗利の立て直し方と、獲得コストの見直し方は、それぞれ専門の記事で詳しく扱っています。
収益改善は、どの順番で手をつけるか
3つの着眼点すべてを同時に直そうとすると、どれも中途半端になって利益率が動きません。最も傷んでいて、かつ自社の手元で動かせる1領域から着手します。順番の決め方は、影響度・着手しやすさ・波及の3軸で採点する方法があり、これは着手順位を1つに絞るためのフレームです。
着眼点が3つ見えても、限られた人と時間で全部を同時に直すことはできません。ここで有効なのが、着手する順番を1つに絞ることです。声の大きい部署の課題や、直近で困っていることに引きずられず、会社全体の利益率に最も効く1領域を選びます。
着手順位の絞り込みには、影響度(利益への効き方)・着手しやすさ(自社でどこまで動かせるか)・波及(1つ直すと他の課題まで連鎖して改善するか)の3軸で採点する方法が使えます。この3軸の詳しい採点手順は、着手順位の決め方をまとめた別記事にあります。
着手順位の採点方法は「経営課題はどの領域から手をつけるか|着手順位の決め方(ROI優先順位マップ)」で詳述しています。
自社のどこに利益の漏れがあるか自体が掴めていない段階なら、症状から穴を逆引きする「見えない穴7パターン」を先に読むと、着眼点の当たりがつけやすくなります。
収益改善の最初の30日で、確かめること
最初の30日は、大きな施策を打つより「利益率の内訳を見える化する」ことに充てます。商品別・顧客別に粗利率を並べ、値引きや追加工数で実質利益が薄い取引を洗い出し、獲得コストと継続率のデータを揃える。この期間の目的は打ち手の実行ではなく、3つの着眼点のどれから直すかを1つに決めることです。
- 直近1年の売上を商品別・顧客別に分け、それぞれの粗利率を並べて、薄い取引と厚い取引を見分ける
- 値引き・追加対応・過剰な工数で、表面の売上ほど利益が残っていない取引を具体名で洗い出す
- 新規獲得のコストと、その顧客の継続率・リピート率のデータを揃える(揃っていなければ、計測の仕組みづくりを最初の課題にする)
- 売上の質・獲得の質・継続の質のうち、最も傷んでいて自社で動かせる1つを、翌月からの着手領域として仮置きする
30日で利益率が改善しきることはありません。この期間でやるのは、どこから直すかの順番を決めることです。順番さえ正しければ、その後の打ち手は小さくても利益率に効き始めます。
すでに赤字が続き資金繰りが逼迫している場合は、収益改善の順番を考えるより先に、資金の手当てと立て直しの着手順位を優先してください。その局面の進め方は、立て直しの入口をまとめた記事で扱っています。
自社の収益改善の着手領域を、診断で確かめる
自社がどの着眼点から収益改善に手をつけるべきかは、経営者のタイプと現在の症状から当たりをつけられます。無料の経営ROI診断(約5分)では、6つの経営領域から自社に近い経営者タイプと、最初に着手すべき領域を確認できます。社内で立てた着手順位の仮説を、第三者のフレームで照らし直す使い方ができます。
収益改善の着手順位は、社内だけで決めると「いま目立っている課題」に寄りがちです。利益率に本当に効く着眼点と、社内で話題になっている課題は、必ずしも一致しません。
無料の経営ROI診断(約5分)では、成長戦略・意思決定・組織実行・人材後継・DX業務・顧客市場の6領域から、自社に近い経営者タイプと着手すべき領域を整理できます。3つの着眼点のどれから直すかを決める前に、自社の優先順位を俯瞰する材料として使えます。
よくある質問
- Q. 収益改善は、売上アップとコスト削減のどちらから手をつけるべきですか?
- A. どちらか一方という選び方ではなく、まず利益率を下げている「質」の部分を見つけることから始めます。粗利率の低い売上構成・回収できていない獲得コスト・積み上がらない継続率のうち、自社で最も傷んでいる1つを特定し、そこを組み替えるのが先です。売上アップもコスト削減も、質を直したあとのほうが利益率への効き方が大きくなります。
- Q. 大きな投資をせずに収益改善はできますか?
- A. 着眼点を「量」ではなく「質」に置くと、多くの部分は既存の売上とコストの内訳を組み替えるだけで動きます。粗利の薄い取引の条件を見直す、割に合わない顧客への工数を減らす、継続率の高い顧客への比重を上げるといった打ち手は、新規投資を前提としません。まず内訳の見える化から入ると、投資が小さくても効く領域が見えてきます。
- Q. 収益改善と、赤字からの立て直しは同じですか?
- A. 重なる部分はありますが、入口が違います。資金繰りが逼迫した赤字の局面では、まず資金の手当てと立て直しの着手順位が優先になります。本記事が扱う収益改善は、資金にまだ猶予があり、利益率をもう一段上げたい段階を主な対象にしています。切迫した局面では、立て直しの入口をまとめた別記事や、専門家への相談を先にしてください。
- Q. 3つの着眼点は、どれから見ればいいですか?
- A. 最も傷んでいて、かつ自社の手元で動かせる1つからです。3つは互いにつながっているため、一度に全部を追うと相殺し合います。商品別・顧客別の粗利率、獲得コストと歩留まり、継続率のデータを並べて、いちばん漏れの大きい1領域を仮置きするところから始めると、着手が具体的になります。
- Q. 収益改善計画を金融機関に出す必要がある場合も、この進め方で足りますか?
- A. 金融機関へ提出する収益力改善計画は、数値計画やモニタリング体制など、本記事の範囲を超える要素が求められます。公的な支援制度や様式は中小企業庁の収益力改善支援などで公開されており、実際の作成にあたっては中小企業活性化協議会や取引金融機関、顧問税理士などに相談するのが実務的です。本記事の着眼点は、その計画の中身である「どこから利益率を上げるか」を固める段階で役立ちます。